小口様、「虚実の原点-1」へのコメントありがとうございます。先ずは、「虛実」概念が兵法に由来する事を端的に示す文章を挙げて置きますので、ご参考にして下さい(➀、➁)。
 ご要望は「当方が古典研究をどの様に臨床応用して居るのか?の点も解説して欲しい」との事ですね!ご要望に沿って、前回に便宜的に仮定した「ビジー」と「フリーズ」をこれから試考・解説します。その為に必要な知識として、身体に出現する基本的な「虛実の目安」を先に確認して置きます(③)。

➀『霊枢』逆順篇「兵法曰。無迎逢逢之氣、無撃堂堂之陣。刺法曰。無刺熇熇之熱、無刺漉漉之汗、
 無刺渾渾之脈、無刺病與脈相逆者。」
  訓読:兵法二曰ク。逢逢(ホウホウ)ノ気ヺ迎ル無カレ、堂堂(ドウドウ)之陣ヺ撃ツ無カレ刺法ニ曰ク。
 熇熇(カクカク)ノ熱ヺ刺ス無カレ、漉漉(ロクロク)之汗ヺ刺ス無カレ、渾渾(コンコン)之脈ヺ刺ス無カレ、病ト脈
 トガ相イ逆ラウ者ハ刺ス無カレ。
  意釈:兵法書には次の様に記されて居ます。陣太鼓を威勢良くド・・ドンと盛大に響かせて来る敵
 を迎撃してはなら無い。堂堂の強大な敵陣を攻撃してはなら無い。刺法には次の様に記されて居ま
 す。燃える様にカッ・カッと発熱したら鍼治療をしてはなら無い。滴る様にポタ・ポタと発汗したら鍼
 は止めておくべきです。波立つ濁流の様にゴウ・ゴウと脈流が強過ぎる場合には鍼を刺してはいけ
 ません。病症と脈とが互いに一致せず反って逆の状態を露呈している場合には鍼治療をしては為り
 ません。

➁『孫子』軍爭篇「無邀正正之旗、勿擊堂堂之陳。此治變者也。」
  訓読:正正(セイセイ)ノ旗ヺ邀(ムカ)ウル無カレ、堂堂(ドウドウ)ノ陣ヺ撃ッコト勿カレ。此レ変ヺ治メル
 者ナリ。
  意釈:整然と旗を立てて隊列を整えて進撃してくる敵を迎え撃ってはならない。堂々とした強大な
 敵陣を攻撃してはならない。
これが変化を掌握する事である。

③『難経』四十八難「人有三虚三実、何謂也。然。有脈之虚実、有病之虚実、有診之虚実也。脈之虚実者、濡者為虚、緊牢者為実。病之虚実者、出者為虚、入者為実。言者為虚、不言者為実。緩者為虚、急者為実。診之虚実者、濡者為虚、牢者為実。痒者為虚、痛者為実。外痛内快、為外実内虚。内痛外快、為内実外虚。故曰虚実也。」
  訓読:人ニ三虚三実有リ、トハ何ノ謂イゾヤ。然リ。脈ノ虚実有リ、病ノ虚実有リ、診ノ虚実有ル
 ナ リ。脈ノ虚実トハ、濡(ナン軟)ナル者ハ虚ト為シ、緊牢ナル者ハ実ト為ス。病ノ虚実トハ、出ズル者
 ハ虚 ト為シ、入ル者ハ実ト為ス。言ウ者ハ虚ト為シ、言ワザル者ハ実ト為ス。緩ナル者ハ虚ト為
 シ、急ナル者ハ実ト為ス。診ノ虚実トハ、濡(ナン)ナル者ハ虚ト為シ、牢(カタ)キ者ハ実ト為ス。痒ユキ
 者ヺ虚ト為シ、痛タム者ヺ実ト為ス。外ハ痛タミ内ハ快キハ、外実内虚ト為ス。内ハ痛タミ外ハ快キ
 ヲ、内実外虚ト為ス。故二虚実ト曰ウナリ。
  意釈:人に「三虚・三実」が有るとは、どの様な事を云うのか? お答えします。「脈の虚実」と
 「病の虚実」、そして「診察における虚実」の三つの事です。「脈の虚実」とは、軟弱な脈は虚で、
 堅い緊張(緊牢)の脈は実です。「病の虚実」とは(病位の伝変が)、内から外へ出るものは虚、外か
 ら中へ入るものは実です。(喋り方では)言う者は虚、言わない者は実です。(病勢では)緩慢に進行
 する慢性症は虚、進行の速い急性症は実です。診察での虚実は、触診して軟弱なものは虚、堅い
 ものは実です。痒がるものは虚、痛がるものは実です。外側を浅く按じると痛むが、内側まで深く
 按じると気持ち良いのは「外実内虚」です。反対に、内側まで深く按じると痛むが、外側だけを浅く
 按じると気持ち良いのは「内実外虚」です。だから「虚・実」と云うのです。


(以下、「滞り」と疎通-3に続く。)