前回(虚実の常識?-3)では、『素問』三部九候論の「形の肥痩」を挙げましたので、今回はそれについて補足します(➀➁)。

➀『素問』三部九候論「必先度其形之肥痩、以調其気之虚実。実則写之、虚則補之。必先去其血脈、而後調之。無問其病、以平為期。」
 訓読:必ズ先ズ其ノ形ノ肥痩ヺ度リ、以ッテ其ノ気ノ虚実ヺ調エル。実スレバ則チ之ヺ写シ、虚スレバ則チ之ヺ補ウ。必ズ先ズ去其ノ血脈ヺ去リ、而ル後ニ之ヺ調エル。其ノ病ヺ問ウコト無く、平ヺ以ッテ期ト為ス。
 意釈:必ず先に、発病の前後での身体の肥痩の変化を測って、その気の虚実を調えるのです。まだ肥えていて体力も充実していれば邪気を排除する泻法を施せますが、痩せて虚弱な状態なら体力を付けさせる補法で精気を補強するのです。しかし、その補泻の前に必ず(鬱滞・怒張した)血脈があれば刺絡によって鬱血を取り去り、血行不良を改善した後に虚実を調えるのです。何の病気であっても、先に血行の平常化を期すのです。

疎通優先

➁『霊枢』衛氣失常「何以度之(『甲乙』作「知」)其肥痩。~人有肥、有膏、有肉。~膕肉堅、皮滿者肥。膕肉不堅、皮緩者膏。皮肉相不離者肉。」
 訓読:何ヺ以ッテ度リ、其ノ肥痩ヺ知ラン。~人ニ肥有リ、膏有リ、肉有リ。~膕肉堅ク、皮滿ツル者ハ肥ナリ。膕肉堅カラズ、皮緩ルム者ハ膏ナリ。皮肉相イ離レザル者ハ肉ナリ。
 意釈:どの様に計測したら、体格の肥と痩を区別できますか?人の肥満には、膏(脂肪質)と肉(筋肉質)の場合が有ります。~上腕や脹ら脛の盛り上がった肉(膕肉)が堅く皮膚も張っているのが肥です。盛り上がった肉(膕肉)に堅さが無くて皮膚も緩んで張りが無いのは膏です。皮と肉が良くくっついているのが肉です。

 引用➀で注意して欲しい点は、「補泻」の実行には条件が在り、先ず循環不良が改善・平常化されている事が前提です。この「循環不良の改善」、つまり通りを良くする事を「疎通」法と言いますが、補泻法と疎通法では「疎通優先」です。
 また、体力の充実度を測る解り易い目安である「形の肥・痩」の「肥」とは、敢えて俗語にすれば所謂る「タプタプのデブ」の事では有りません。筋肉質で堅い肉が盛り上がった「モリモリのマッチョ」と言った方が正しいでしょう。
 判り易い「形(体格)」だけでは無く、面倒でも注意して診ないと判り難い「気(体力)」の反応とも比較検討して、その矛盾の度合いで予後の善し(順証)・悪し(逆証)も見分けなさい!と言っている文章から、片言隻句を曲解し「痩せている=虚証だから補法だ!」では、東洞が「酷い間違いだ!」と嘆くのは当然ですね!
 考証学では、この手の「短絡的な誤訳」を「望文生義(ボウブンセイギ:文を望みて義を生ずる)」と呼称します。吉益東洞は、『傷寒論』だけでは無く『内経』もチャンと読んでいた筈です。

(以下、「形」と「気」-2に続く。)