前回は、「無煙無臭化」を果たす為に、艾(モグサ)に見切りを付けて、粉末炭を混合した燃料素材の配合などに苦心した話でした。その「艾に見切りを付け」たの言については、特に誤解されたく無い点ですので、念の為に説明を追加します。あくまでもこの当院のやり方で「大量に燃焼させても無煙無臭化を果たす為」には、艾は不向きだと言っているだけで、お灸全般の有効性を否定している訳では無いのです。
 「無煙無臭化」の目標さえ放棄すれば、これ程素晴らしい燃焼材料は他に無いのです。火力が弱まって消えて終ったか?の様に見えても、チョット吹けば一瞬で火力が再起する通気性と燃焼性の良さは、数々の試行を重ねた私の実感です。それが数千年使われ続けた由縁でも在ると思います。だから、現代的なニーズの「無煙無臭」を捨てても、またその使用に戻りたくなる誘惑に苦悩させられるのです。
 前回には「伝統の智恵を現代に活かす治療」をしたいとも言いました。私は古典は学ぶべきだと思いますが、そのままに実行する原理主義では有りません。古代のやり方をそのままに再現したい訳では有りませんし、現代にマッチさせなければ活用は不可能だとも思っています。
 では、「スチール缶」バージョンまでの試行で解った事を構造化して整理して見ます。今回は、そのための図解を貼って置きます。

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 以前に、燃料の通過経路を四つの構成要素に分けました(熨法とは?-12参照)。その四段階を以下に再掲して置きます。
➀詰め口(台座把手側の開口部)
 →まだ加熱されず燃料は弾力性を保持している段階。
➁予熱部(筒状の金属で通気口の無い部分)
 →熱と煙のヤニがこもり、圧着されて固形化が進行する段階。
③通気燃焼部(筒状の金属で通気口の有る部分)
 →息で吹く通気に因って燃焼が始まり燃焼し易い通気性の成分から減少していく段階。
➃燃焼面(先端の開口部の空気に触れる面)
 →開口部の自然な通気に触れて継続的に燃焼し、蓄積した粉末炭が高温でユックリと燃焼する段階。

 燃料が焼け堅まって通過抵抗が増大して行く「詰まり問題」が、全体を陶器で作成している陶筒バージョンの段階から起きていた事は既に書きました(熨法とは-12参照)。以前は、それを解消するために「燃焼部の内径を数ミリずつ広げる」依頼を繰り返して改善しようとして居たのですが、依頼は通りませんでした(灸熨法-6参照)。当時は不満でしたが「もし依頼が通っていたら・・・」と今にして想えば、どれ程の時間と予算を浪費する羽目に陥ったのか・・・?と為るので、恐ろしくてそれ以上は考えたく有りません。
  つまり、スループット(throughput:中身の流出量・速度)を制約するボトルネック (bottleneck:スムーズな進行を妨げる隘路) は「燃焼部」で、そこだけを僅かに広げれば状況が改善されるのでは?と推測していたのです。
 しかし、依頼が通らなかった事で、自作のスチール缶バージョンで「予熱部」と「燃焼部」を共に一気に大幅に拡大する事に繋がり、反って良い結果が出たのです。つまり、「燃料が圧縮固形化されるメカニズム」は、予想以上に強力だった、と言えます。(「熨法」とは?-16へ続く)