蓬松養生院(旧・柳原はりきゅう院)

「森立之研究会」や「伝統医療游の会」など、伝統医学の古典考証や研究を綴ります。

2021年03月

伝統医学の「虚実」(05)、「形」と「気」-2

 前回(「形」と「気」-1)は、『素問』三部九候論の「形の肥痩」を挙げました。今回は、何の為にそれを診るのか?について補足します(③)。

③『素問』三部九候論「帝曰、決死生奈何。岐伯曰、形盛脈細、少気不足以息者危。形痩脈大、胸中多気者死。形気相得者生。参伍不調者病。三部九候皆相失者死。」
 訓読:帝曰ク、死生ヺ決スルハ奈何ン。岐伯曰ク、形盛ン脈細ク、少気シ以ッテ息スルニ不足スル者ハ危シ。形痩セ脈大、胸中気多キ者ハ死ス。形気相イ得ル者ハ生キル。参伍シ調ハザル者ハ病ム。三部九候ヺ皆ナ相イ失ナウ者ハ死ス。
 意釈:帝が言われた。予後の死生判断は、どの様にするのか?と。岐伯が御答えした。身体は盛んであるのに脈は細く、気(呼吸力)が浅く吸息も少なくて満足にできない者は、危険です。身体は痩せているのに脉は大きく、胸中に息が詰まって呼気が満足に出せない者は、死すのです。身体と気が相応で素直な反応をしている場合は生きますが、参伍しても調和せず相反して矛盾する場合は、病む(慢性化する)のです。さらに全身に散在して脈打つ三部九候の診断場所のツボの様子が、バラバラで調っていない者は、死すのです。

とは?形気


3部9候の逆順

 以前に私は、「形・気」概念は中国文化ではとても古くから在る重要な思考法で、物事を「判りやすい有形の物質」と「判りにくい無形のエネルギー」の両面から考えようとする方法であるが、どちらかと言えば、無形で目に見え無い「気」の方を重視する傾向が在り、後に「陰陽」論に統合吸収されて受け継がれて行った!、との趣旨の講義を受けた事があり、深く納得させられました(2017年4月15日Facebook山口秀敏に「4/15(土)森立之研究会。先月に続けてご講義下さった遠藤次郎先生の「形・気」論は「陰陽」観の根源に迫る興味深いお話しでした。」との記録が残って居りました)。

(以下、「形」と「気」-3に続く。)

伝統医学の「虚実」(04)、「形」と「気」-1

 前回(虚実の常識?-3)では、『素問』三部九候論の「形の肥痩」を挙げましたので、今回はそれについて補足します(➀➁)。

➀『素問』三部九候論「必先度其形之肥痩、以調其気之虚実。実則写之、虚則補之。必先去其血脈、而後調之。無問其病、以平為期。」
 訓読:必ズ先ズ其ノ形ノ肥痩ヺ度リ、以ッテ其ノ気ノ虚実ヺ調エル。実スレバ則チ之ヺ写シ、虚スレバ則チ之ヺ補ウ。必ズ先ズ去其ノ血脈ヺ去リ、而ル後ニ之ヺ調エル。其ノ病ヺ問ウコト無く、平ヺ以ッテ期ト為ス。
 意釈:必ず先に、発病の前後での身体の肥痩の変化を測って、その気の虚実を調えるのです。まだ肥えていて体力も充実していれば邪気を排除する泻法を施せますが、痩せて虚弱な状態なら体力を付けさせる補法で精気を補強するのです。しかし、その補泻の前に必ず(鬱滞・怒張した)血脈があれば刺絡によって鬱血を取り去り、血行不良を改善した後に虚実を調えるのです。何の病気であっても、先に血行の平常化を期すのです。

疎通優先

➁『霊枢』衛氣失常「何以度之(『甲乙』作「知」)其肥痩。~人有肥、有膏、有肉。~膕肉堅、皮滿者肥。膕肉不堅、皮緩者膏。皮肉相不離者肉。」
 訓読:何ヺ以ッテ度リ、其ノ肥痩ヺ知ラン。~人ニ肥有リ、膏有リ、肉有リ。~膕肉堅ク、皮滿ツル者ハ肥ナリ。膕肉堅カラズ、皮緩ルム者ハ膏ナリ。皮肉相イ離レザル者ハ肉ナリ。
 意釈:どの様に計測したら、体格の肥と痩を区別できますか?人の肥満には、膏(脂肪質)と肉(筋肉質)の場合が有ります。~上腕や脹ら脛の盛り上がった肉(膕肉)が堅く皮膚も張っているのが肥です。盛り上がった肉(膕肉)に堅さが無くて皮膚も緩んで張りが無いのは膏です。皮と肉が良くくっついているのが肉です。

 引用➀で注意して欲しい点は、「補泻」の実行には条件が在り、先ず循環不良が改善・平常化されている事が前提です。この「循環不良の改善」、つまり通りを良くする事を「疎通」法と言いますが、補泻法と疎通法では「疎通優先」です。
 また、体力の充実度を測る解り易い目安である「形の肥・痩」の「肥」とは、敢えて俗語にすれば所謂る「タプタプのデブ」の事では有りません。筋肉質で堅い肉が盛り上がった「モリモリのマッチョ」と言った方が正しいでしょう。
 判り易い「形(体格)」だけでは無く、面倒でも注意して診ないと判り難い「気(体力)」の反応とも比較検討して、その矛盾の度合いで予後の善し(順証)・悪し(逆証)も見分けなさい!と言っている文章から、片言隻句を曲解し「痩せている=虚証だから補法だ!」では、東洞が「酷い間違いだ!」と嘆くのは当然ですね!
 考証学では、この手の「短絡的な誤訳」を「望文生義(ボウブンセイギ:文を望みて義を生ずる)」と呼称します。吉益東洞は、『傷寒論』だけでは無く『内経』もチャンと読んでいた筈です。

(以下、「形」と「気」-2に続く。)

伝統医学の「虚実」(03)、虚実の常識?-3

 前回投稿(虚実の常識?-2)への再コメント、ありがとう御座いました。 タイ式マッサージのセラピストで在りながらも、頑張ってお読み下さって、「抵抗力(抗病力)の強弱=虚実」と認識された、との事でした。その「抵抗力」は、古典的な言葉としては「精気」と言い換えられます。同様に、病気にさせる力が「邪気」です。
 つまり「精気の強弱=虚実」との認識ですから、なかなか筋の良い理解です。その意味の解釈も有力な説として存在します(下記powerpoint参照)。

肥痩


 
東洞と南涯

 「一見痩せている」だけで「虚」として、補法(例えば人参のような高貴薬で体力を付けさせる治療)をする様な短絡的診断の横行を、東洞は「酷い間違いだ!」と嘆いています。吉益東洞(ヨシマス トウドウ)は、日本の漢方に大きな影響を残した「古方」と称する学派の大家です。
 東洞自身は腹診で見つけたシコリ等の「毒」を劇薬で取り去る泻法を重視しました。
 息子の南涯は、その泻法偏重への反発なのか?邪ばかりでは無く「精気」に注目します。日本の漢方では東洞と南涯の見解が、その背景を無視して誤解されてしまったように見受けられます。

(以下、「形」と「気」-1に続く。)

プロフィール
山口秀敏

関東鍼灸専門学校卒

東京医療専門学校
 鍼灸教員養成科卒

信州医療福祉専門学校付属
光和はりきゅう院 元院長

2000年に岡田研吉氏、岩井祐泉氏と森立之研究会を発足し、現在は事務局長兼講師。

「伝統医療 游の会」を会長・松田博公先生、副会長、故・杉山勲先生・足立繁久先生達と設立し、事務局長兼講師。



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