前回は当院の新しい方法と用具の呼称を一応決めた話でした。
 新しい温熱器具の呼称は、「熨筒ウットウ」です。それは、現代日本語の「熨斗ノシ」の元に為った漢代中国語「熨斗ウット」に因んで造語しました。
 「熨斗ウット」は「火熨斗ヒノシ」を指す古代の柄杓型のアイロンで、金属製の重量の有る斗(ト:柄杓ヒシャク、木製の柄で断熱し手が焼けない構造の道具)に炭火を容れて、その火熱と重みで加熱・加圧して布の皺延ばしをする道具です。
 それを「火で伸ばす物」の意で、日本では「ヒノシ」と訓じて来たのですが、それに相当する英語由来の「アイロン」に代替されてしまったので、その後「火熨斗ヒノシ」の語は廃れてしまい、「熨斗ノシ」の言葉遣いだけが、転化した「熨斗鮑ノシアワビを象徴する飾り」の意味でのみ残りました。しかし中国語では今も猶お「熨斗:yùndǒu:ユンドウ」がアイロンの意に使われ続けて居ます。
 「患者様にアイロン掛け・・・云々」等と言ってしまうと、如何にも「残酷な苛め」の印象を与え兼ねないので、解説を追加します。私の熨法の手順は、先ず、➀燃焼中の熨筒を右手に持って、折り重ねたタオルの上に当てて加熱します。次いで、➁その熱したタオルをミトンをはめた左手で熱伝導の速度を加減しながら加圧して施術箇所を温熱します(「熨法」とは?-3参照)。
 火熨斗と対照して見ると、先ず重ねたタオルに畜熱して行く➀の「加熱段階」は、布を加熱するアイロンがけと似て居ます。次に熱く為って蓄熱したタオルを圧して温熱を伝えて行く➁の「加圧段階」は、言わば「筋膜の皺延ばし」の様にも連想できるので、これもまた「シワノバシ」としてアイロンと似て居ると言えます。
 「➀加熱段階」での要点は、重ねるタオルの枚数調整です。厚手のタオルを沢山重ねた方が断熱の層が厚く為り、「蓄熱容量が増大」するので、熨筒の強大な火熱を充分に吸収させて「利用可能な状態で蓄熱」出来ます。但し、「欲張って蓄熱」しようとする余りに「枚数を多くし過ぎ」ると厚味を増した断熱層を透過して伝導させる為には加熱量を増やさざるを得無いので、断熱層の表面温度が上がり過ぎて燃え始めてしまいタオルに焦げ穴を開けて終います。無駄にタオルを焼失しないためには不燃限度を超えない範囲内での加熱になる様に枚数調整します。
 「➁加圧段階」での要点は、圧し方の加減です。ミトンをはめた左手での「温熱の加減」は、素早く加圧すれ熱の透過伝導が早く為るので「熱く為り」ますが、ユックリ加圧すれば「徐々に温まり」ます。「熱つ過ぎる」と感じた場合には、左手の加圧を緩めれば温熱は「ぬるく為り」ます。加圧を止めて終えば、自然に放熱して「冷めて行く」ので、もし「熱い!」と言われたら左手を放して終えば徐々に冷めます。蛇足ながら、更にタオルを剥いでバタバタ扇げば、空冷されて「寒く為り」ます。
 私はこの様な臨床を重ねる内に、古典的な世界観で見れば「この熨法」は「軽量小型化した火熨斗(ヒノシ)の治療への転用」に相当するのでは?との感想を持つに至りました。

(「熨」のイメージ-6へ続く)