蓬松養生院(旧・柳原はりきゅう院)

「森立之研究会」や「伝統医療游の会」など、伝統医学の古典考証や研究を綴ります。

伝統医学の「虚実」(17)、「滞り」と疎通-7。

 先ず「熱を内れるべき寒痺」の「痹」とは、どの様な事か?から確認して置きましょう(⑧、⑨)。

⑧『説文』「痺、湿病也。」
  訓読:痺ハ、湿病ナリ。
  意釈:痺とは、湿の病です。
 
⑨『素問』痺論篇「黄帝問曰、痺之安生? 岐伯対曰、風寒湿三気雑至、合而為痺也。其風気勝者為
 行痹。其寒気勝者為痛痹。其湿気勝者為著痹也。」
  訓読:黄帝問ウテ曰ク、痺ハ之レ安クニカ生ズ?ト。 岐伯対エテ曰ク、風寒湿ノ三気雑ジリ至リ、
 合シテ痺ヺ為スナリ。其ノ風気勝ツ者ハ行痹ヺ為シ、其ノ寒気勝ツ者ハ痛痹ヺ為シ、其ノ湿気勝ツ
 者ハ著痹ヺ為ス也、ト。
  意釈:黄帝が質問して言われました。痺と言う物はどの様な所に生ずるのだろうか?と。岐伯が答
 えて言いました、風寒湿の三気が混じり限度に達すると、合体して痺(閉塞して通じない状態)を形成
 するのです。その風気勝つ者は行痹(コウヒ:移動性が高くて動き易い邪気塊)を為す。その寒気勝つ
 者は痛痹(ツウヒ:痛みの強い邪気塊)を為す。その湿気勝つ者は著痹(チャクヒ:移動性は無く同じ所に
 粘着し続ける邪気塊)を為す也、と。

  ⑨に拠れば、「痹」と言うのは、「寒邪」単独では無く、少なくとも「風」「寒」「湿」の三種の邪気に因る複合病態です。
 また複合する三気の中でも風邪の勢力が勝つと風の性質を反映した「移動性が高い痹(行痹:コウヒ)」となり、寒邪が勝つと寒冷の性質を反映した「痛みが強い痹(痛痹:ツウヒ)」となり、湿邪が勝つと水湿の性質を反映した「粘着性の高い痹(著痹:チャクヒ)」となります。
 つまり、「痹」を形成する邪気の色々な種類の混合比に因ってその痹の性質が変わる、と言う事ですね!




(以下、「滞り」と疎通-8に続く。)

伝統医学の「虚実」(16)、「滞り」と疎通-6。

 エリコ 様、ご自身の場合は「寒がりなのでフリーズですか?」とのご質問、ありがとうございます。話題に沿って解説を深めるにはタイミングの良いコメントですので、優先的にお答えします。(^^)
 前回(滞りと疎通-5)は、心理的な余裕の無さと焦りが、身体に過緊張となって現れ、その堅く凝った緊張の苦しさによって「こんな体調でがんばれるのか?治らなかったらどうしよう!」等と尚更に不安や焦りを増して行く事。「心と身体との悪循環を止められず増悪して行く緊張の暴走状態」に成って終っている「ビジー」の話でした。
 さて、今回は「フリーズ」です。例えば、エリコ様の場合は真夏の猛暑日で当方が暑さバテしている時でも、熨法で温める事を希望される等、こちらが恐ろしく成る程に温める事を要望される事が多いので、御自身が仰る様に、確かに「寒がり屋さん」です。
 極端な言い方でイメージ化すれば、まるで「凍り付いて居るのか?」とも想える程に堅く凝っています。その意味では、正に「フリーズ(凍結)」です。そして熨法で熱を入れて見ると、本当に「氷りが溶ける様に」良く緩む!ので、これぞ古典の云う「寒痺内熱(寒痺ハ熱ヺ内レル)!」の治療なのでは?!と、当方も密かに喜んで居ました(「古典の温罨法、熨法」、参照)。
 しかし、何事も喜んで居るだけでは進歩が有りませんので、吟味して置きましょう。治療家の短絡思考を鍼灸業界では、良く「サンタ主義」と言います。クリスマスのサンタクロースでは無いのですが・・・m(_ _)m。
 「三タ!」とは、「やっタ!」「治っタ!」「良かっタ!」に代表される三つの「タ!」の事です。こういう風に治療したら効いた!と良かった事ばかりに注目し(良く無かった事を無視または軽視し)て、不勉強で進歩しない頑固者を揶揄する言い方です。当方も、熨法で「温めタ!・緩んダ!・良かっタ!」と、自慢ばかりの御目出度い奴だ!と揶揄されない様に、もう少し古典に照らして考えてみます。

(以下、「滞り」と疎通-7に続く。)

伝統医学の「虚実」(15)、「滞り」と疎通-5。

   koyuri 様とエリコ 様「シューマン共振」についてのご質問、ありがとうございます。コメントして下さる方が増えて嬉しいのですが取り敢えず今の話を続行し、切りの良い所でその話題に移行しますので暫くお待ち下さい。m(_ _)m
 さて、前回(滞りと疎通-4)では具体例として私の経験(➃、➄)を挙げ、「不安感に常に駆り立てられる気持で、最高血圧が200前後、首と肩が常に重苦しく凝り、全身が火照った様に熱くなる事が多かった」と書きました。
 これを「ビジー」か?「フリーズ」か?で考えれば、ビジーですね! このカテゴリー分けを思い出して頂くために、「滞りと疎通-1」で概念を仮定した文章を再掲して置きます(➅、⑦)。


➅ 可動性が低下し凝り固まった関節を、感覚的にフリーズと表現しました。動作が止まってしまう事を「freeze、凍結」と言っても、PCの場合は必ずしも改善対象としての「寒(冷え)」を伴う訳では無い様です。以前の記事で、「寒痺内熱!」の熨法(ウツホウ)の適応原則を紹介した事が有るのですが、人間とPCはそこが大いに違う様です。
(「伝統医学の虚実11、滞りと疎通-1」より抜粋、再掲)


⑦ ビジー(busy)は「忙しい」意味です。応答が無く画面に「システムがビジー状態です」と表示されたら、PCの動作が遅くなって、人間に例えると忙し過ぎて焦って空回りしている状態です。
 これは意外に良い表現として借用できるのでは?と思いますので、暫くは「リラックスが必要な方にはビジー」、「温める必要の有る方にはフリーズ」で使い分けて見ます。最近は特に心理的な焦りが、過緊張として身体に現れた苦しさの故に来院される患者様が、増加している様に感じますので。
(「同上」抜粋、再掲)

  ダンボ様のコメントは、当方が「肩甲骨がフリーズしてると言うのが虚実の実で、シャットダウンしたと言うのが虚実の虚ということですか?」との御質問でしたが、先ずはダンボ様の凝り固まった状態は「ビジー」と言う事に訂正させて頂きます。
 その上で虛実概念を言えば、試しに肩甲骨を揺すって診て、肋骨に貼り付いたように周囲の筋肉が過緊張しているので肩甲骨がスライドしない状態は「実」で、そして治療後に緊張が解けて可動性がでた状態は「虛」です。ダンボ様の筋肉の力を抜くことができ無くなっている状態は、PCの「熱暴走」に準えて、ストレスによる「筋緊張の暴走」とでも言えそうですね。


(以下、「滞り」と疎通-6に続く。)

プロフィール
山口秀敏

関東鍼灸専門学校卒

東京医療専門学校
 鍼灸教員養成科卒

信州医療福祉専門学校付属
光和はりきゅう院 元院長

2000年に岡田研吉氏、岩井祐泉氏と森立之研究会を発足し、現在は事務局長兼講師。

「伝統医療 游の会」を会長・松田博公先生、副会長、故・杉山勲先生・足立繁久先生達と設立し、事務局長兼講師。



長野市若穂の鍼灸院
長野市若穂綿内  
8568-8
イナダハイツ1号室
(個別指導塾まつがく若穂教室様と同じ建物です)


予約優先制です

予約受付 09:00~11:00,14:00~18:00.

休院日  日曜日
     
     研究会などの為
     不定期で休院の
     場合あります
     電話確認願います

   ☎026-400-1396