蓬松養生院(旧・柳原はりきゅう院)

「森立之研究会」や「伝統医療游の会」など、伝統医学の古典考証や研究を綴ります。

伝統医学の「虚実」(04)、「形」と「気」-1

 前回(虚実の常識?-3)では、『素問』三部九候論の「形の肥痩」を挙げましたので、今回はそれについて補足します(➀➁)。

➀『素問』三部九候論「必先度其形之肥痩、以調其気之虚実。実則写之、虚則補之。必先去其血脈、而後調之。無問其病、以平為期。」
 訓読:必ズ先ズ其ノ形ノ肥痩ヺ度リ、以ッテ其ノ気ノ虚実ヺ調エル。実スレバ則チ之ヺ写シ、虚スレバ則チ之ヺ補ウ。必ズ先ズ去其ノ血脈ヺ去リ、而ル後ニ之ヺ調エル。其ノ病ヺ問ウコト無く、平ヺ以ッテ期ト為ス。
 意釈:必ず先に、発病の前後での身体の肥痩の変化を測って、その気の虚実を調えるのです。まだ肥えていて体力も充実していれば邪気を排除する泻法を施せますが、痩せて虚弱な状態なら体力を付けさせる補法で精気を補強するのです。しかし、その補泻の前に必ず(鬱滞・怒張した)血脈があれば刺絡によって鬱血を取り去り、血行不良を改善した後に虚実を調えるのです。何の病気であっても、先に血行の平常化を期すのです。

疎通優先

➁『霊枢』衛氣失常「何以度之(『甲乙』作「知」)其肥痩。~人有肥、有膏、有肉。~膕肉堅、皮滿者肥。膕肉不堅、皮緩者膏。皮肉相不離者肉。」
 訓読:何ヺ以ッテ度リ、其ノ肥痩ヺ知ラン。~人ニ肥有リ、膏有リ、肉有リ。~膕肉堅ク、皮滿ツル者ハ肥ナリ。膕肉堅カラズ、皮緩ルム者ハ膏ナリ。皮肉相イ離レザル者ハ肉ナリ。
 意釈:どの様に計測したら、体格の肥と痩を区別できますか?人の肥満には、膏(脂肪質)と肉(筋肉質)の場合が有ります。~上腕や脹ら脛の盛り上がった肉(膕肉)が堅く皮膚も張っているのが肥です。盛り上がった肉(膕肉)に堅さが無くて皮膚も緩んで張りが無いのは膏です。皮と肉が良くくっついているのが肉です。

 引用➀で注意して欲しい点は、「補泻」の実行には条件が在り、先ず循環不良が改善・平常化されている事が前提です。この「循環不良の改善」、つまり通りを良くする事を「疎通」法と言いますが、補泻法と疎通法では「疎通優先」です。
 また、体力の充実度を測る解り易い目安である「形の肥・痩」の「肥」とは、敢えて俗語にすれば所謂る「タプタプのデブ」の事では有りません。筋肉質で堅い肉が盛り上がった「モリモリのマッチョ」と言った方が正しいでしょう。
 判り易い「形(体格)」だけでは無く、面倒でも注意して診ないと判り難い「気(体力)」の反応とも比較検討して、その矛盾の度合いで予後の善し(順証)・悪し(逆証)も見分けなさい!と言っている文章から、片言隻句を曲解し「痩せている=虚証だから補法だ!」では、東洞が「酷い間違いだ!」と嘆くのは当然ですね!
 考証学では、この手の「短絡的な誤訳」を「望文生義(ボウブンセイギ:文を望みて義を生ずる)」と呼称します。吉益東洞は、『傷寒論』だけでは無く『内経』もチャンと読んでいた筈です。

(以下、「形」と「気」-2に続く。)

伝統医学の「虚実」(03)、虚実の常識?-3

 前回投稿(虚実の常識?-2)への再コメント、ありがとう御座いました。 タイ式マッサージのセラピストで在りながらも、頑張ってお読み下さって、「抵抗力(抗病力)の強弱=虚実」と認識された、との事でした。その「抵抗力」は、古典的な言葉としては「精気」と言い換えられます。同様に、病気にさせる力が「邪気」です。
 つまり「精気の強弱=虚実」との認識ですから、なかなか筋の良い理解です。その意味の解釈も有力な説として存在します(下記powerpoint参照)。

肥痩


 
東洞と南涯

 「一見痩せている」だけで「虚」として、補法(例えば人参のような高貴薬で体力を付けさせる治療)をする様な短絡的診断の横行を、東洞は「酷い間違いだ!」と嘆いています。吉益東洞(ヨシマス トウドウ)は、日本の漢方に大きな影響を残した「古方」と称する学派の大家です。
 東洞自身は腹診で見つけたシコリ等の「毒」を劇薬で取り去る泻法を重視しました。
 息子の南涯は、その泻法偏重への反発なのか?邪ばかりでは無く「精気」に注目します。日本の漢方では東洞と南涯の見解が、その背景を無視して誤解されてしまったように見受けられます。

(以下、「形」と「気」-1に続く。)

伝統医学の「虚実」(02)、虚実の常識?-2

 前回は藤木説の取っ掛かり(引用➁)を紹介したのですが、ここからが重要です。少々難しそうな用語が出て来るとは思いますが、一応は自力でネット検索等も活用して、頑張って読んで見て下さい。
それでも解らない所は質問コメントを頂けると、こちらも書き方の参考に為るので助かります。
 では、今回から「藤木説の深層」に触れる事に挑戦します。(③)。

③『太素』 による『全元起本素問』 の復元
「本文を検討しようとすると、その意図の把握は困難である。その原因の一つに『次注本』編集の際に王冰が文章の順序をかなり入れ換えている点がある。この篇は多くの主題を扱っている為、『甲乙経』では主題に応じた章に分断し分散させて編集し、更に問いの部分はかなり捨てられていて、『甲乙経』からも、原型の推定が困難である。今までの注釈家の様にこじつけでも、時代錯誤でも構わずに解釈するなら王冰が手を加えたままでよいが、原著者の意図を読み取り、他の諸篇との時代比較を行い、更に臨床的に現代に生かす為には原文を再構成する必要が有る。」(『素問医学の世界』p133~135より)
重実虛


 藤木説から出発して更に後続文との整合性を検証した結果、一条の原意は「虚実の定義」では無く、寸口脈と尺膚(前腕前面の皮膚)と気(呼吸)による診断を述べている文章である事は、既に指摘(下記、遠藤)されていますので、その結論を要約引用します(➃,➄,➅.上記powerpoint画像も参照)。

➃「重実(実々)」とは?
2条「何謂重實。曰、所謂重實者、言(『甲乙』内)大熱病、気熱、脈滿、是謂重實。問曰、經絡俱實何如、何以治之。~」
 訓読:何ヲカ重実ト謂ハン。曰ク、イワユル重実トハ、内ハ大熱ヺ病ミ、気熱シ、脈滿チル。是レヲ重実ト謂ウ。問イテ曰ク、経絡俱ニ実スルハ何如ン。何ヺ以テ之ヺ治ス。~、
 意釈:どの様な事を「重実」と謂うのでしょうか?曰く。「重実」と言われる事は、内は大熱を病んで、気息が熱くなり、脈も満ちた状態です。この様に「実」反応が重なる事を「重実(実を重ねる)」と謂うのです、と。問いて曰う。経と絡が俱に実するのは何如なる状態でしょうか?どの様に治療するのでしょうか?と。~

➄「重虛(虛々) 」とは? 
10条「 帝曰、何謂重虚。岐伯曰、脈気上虛(『甲乙』脈虛気虛)、尺虛、是謂重虛也。問曰、何以治之。~」
 訓読:帝曰ク、何ヲカ重虚ト謂ハン。岐伯曰ク、イワユル重虛トハ、脈虛シ、気虛シ、尺虛ス。是レヲ重虛ト謂ウナリ。問イテ曰ク、何ヺ以テ之ヺ治ス。~
 意釈:帝が曰われた。どの様な事を「重虛」と謂うのでしょうか?と。岐伯が曰う。「重虛」と言われる事は、脈が虛し、気息が虛し、尺膚も虛す状態です。この様に「虛」反応が重なる事を「重虛(虛を重ねる)」と謂うのです、と。問いて曰う。これをどの様に治療するのでしょうか?と。~

➅「実実」、「虛虛」 と並列の「虚実」!(前回➀参照)
 一条の原意の意釈:黄帝が問いて曰いました。「虚実双方の反応(つまり、これが虚実)が現れるのはどの様な状況か?」と。岐伯は「(外)邪が盛んならば(尺膚が)実し、(内)精が奪われれば(寸口が)虚すのです」と答えました。
(遠藤次郎『「邪気盛則実,精気奪則虚」の意義』,漢方の臨床48巻5号,東亜医学協会,2001. )

(以下、「虚実」の常識?-3に続く。)

プロフィール
山口秀敏

関東鍼灸専門学校卒

東京医療専門学校
 鍼灸教員養成科卒

信州医療福祉専門学校付属
光和はりきゅう院 元院長

2000年に岡田研吉氏、岩井祐泉氏と森立之研究会を発足し、現在は事務局長兼講師。

「伝統医療 游の会」を会長・松田博公先生、副会長(2人)・杉山勲先生・足立繁久先生達と立ち上げ、事務局長兼講師。



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